ラグジュアリースポーツ人気
世界のラグジュアリースポーツのデカイ潮流の勢いはまだまだ止む気配がない。
ラグジュアリーでありスポーツ、アクティブでありながらクラシックであるという、コンセプトのハイブリッド化が世界のあらゆる製品の流行を生み出している。
腕時計は後でお話しするとして、
車の世界でもファッションの世界でもこれまでのものをよりラグジュアリー方向に持っていき、それをスポーティに再現する、という試みがなされている。
そしてそれが大成功している。
欧州の高級車メーカーはこぞってSUVなるものを生み出しているし、あのロールスロイスやベントレー、そしてフェラーリやランボルギーニですら普通に多用途ビークルなるものを世界中で販売しドル箱モデルとしてラグジュアリースポーツ人気を享受している。
ポルシェがカイエンを生み出した時の衝撃もそうですが、やはり時代の流れに乗らねばこういったメーカーは生き残れないのだろうか。
ファッションに関してもノースフェイスなどのキャンプやアウトドアを専門としていたメーカーが若者のファッション界に登場し、学生などのノースフェイスなどのアウトドアブランドリュックサックの使用率を見ても昨今のスポーティ人気を確認することが出来る。
いやはや世の中の流れの早いこと、そして風変わりなこと、なかなか目を見張るものがある。
さて、車とファッションとくれば腕時計も例外ではない。
むしろ腕時計界でこそそのラグジュアリースポーツ侵食が激しいと言え、世界三大時計ブランドのパテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロンコンスタンタンの根幹となる販売モデルはまさにそのラグジュアリースポーツモデルたちで占められている。
ノーチラス、ロイヤルオーク、オーヴァーシーズ、これらの人気は本当にすごい。
ヴァシュロンに限っては少々人気が劣っているので残りの2モデルに比べお買い得感があるわけだが。
世界五台時計ブランドをご存知だろうか?
上記の3つに加え、ブレゲとA.ランゲ&ゾーネを加えたものが世界を代表する5つの時計ブランドだ。
ブレゲにもマリンという海用のスポーティなモデルがあるし、1950年から続くタイプXXと呼ばれるスポーツウォッチが2018年に一旦終了したのち2023年に再登場したのも昨今のラグジュアリースポーツの流れから外れる損失を省みた結果なのだと思える。
クラシックな高級モデルのみを製造していたA.ランゲ&ゾーネも2019年にオデュッセウスという新たな六番目のシリーズを発表しラグジュアリースポーツ界に挑戦状を叩きつけた形となった。
ステンレス製の腕時計をほとんど作ったことがない同社が”通常モデルはステンレス素材”というラグジュアリースポーツの暗黙の了解を採用しているのも、それだけこの流れが大きなものであるという表れなのである。
ちなみにオデュッセウスの価格帯は1000万円近い。
“通常モデル”であってもだ。
ブランド力としては確かにこのくらいの価格で取引されるのは普通なのかもしれないが、10年20年の単位で見ると今の腕時計バブルはかなり異常なものに映るに違いないだろう。
こちらでも少し触れているが、ゼニスのデファイもまたこれまでのものとはまるで違ったタイプの腕時計にモデルチェンジし、ラグジュアリースポーツの仲間入りを果たしている。
このように世界五大時計ブランドや有名ブランドの流れを見てみると、上述した高級車メーカーのそれと大きな共通項があることが見て取れると思う。
1970年代に誕生したオーデマピゲのロイヤルオークとパテックフィリップのノーチラスは他メーカーに先駆けて割と早くからSUV進出していたポルシェのカイエンのようだし、ようやく重い腰をあげたロールスロイスのカリナンはA.ランゲ&ゾーネのオデュッセウスのようだ。
あらゆる理由で時計ブランド、車メーカーが消えていった背景を考えると、
やはり人気車種を作らないと生き残れないという考えと、伝統を崩したくないという想いが交錯していたのだろうと想像できる。
背に腹は変えられないのだ。
というわけで、高級スイスメーカーのラグジュアリースポーツモデルについてざっくりとお話しさせていただいたわけですが、今後もこのラグジュアリーでありながら…というのはしばらくは続いていくのだろうと思う。
なぜロレックスやパテックフィリップ、オーデマピゲは旧型の人気が落ちないのか?
ロレックス市場が荒れている。
ロレックスの市場は常に荒れているのだが、2023年の新作として登場したデイトナのおかげで、旧型市場に変化がみられる。
通常、機械というものは新型が登場すると旧型の時代遅れはお払い箱になる。
なぜならムーアの法則などにより、新しい機械は数年で数倍の性能を携えてやってくるからだ。
古く処理能力が比較して劣っているものは隅に追いやられるのである。
しかしそうではないものも存在する。
ポルシェの911やフェラーリのような芸術性の高い存在は古い方が価値が出やすくなったりする。
現行モデルから外れ、旧型になった名車などは時間をかけて名車になっていく。
車の進化というものはやはり新しい技術を投入された新型の方が性能という面では優っており、そちらを優先する人も十分にいるからだ。
時が経過し、新型だったモデルが旧型になり、そのサイクルが繰り返されていくうちに古いからというデメリットが織り込み済みとなった結果、元々備わっていた芸術的要素が再評価される。
球数が減り、状態の良いものがなくなっていくこともその希少性に寄与する。
車の世界では名車となるには時間が若干必要となるのである。
一方で腕時計となると、デザイン面や内部の技術面でいわゆる型遅れとなることがほとんどない。
ロレックスは特にそうだ。
モデルチェンジでデザインが変わることがほとんどなく、変えられたとしても本当に些細な部分のみであり、旧型と新型の見分けがほとんど付かないことすら珍しくない。
中身のムーブメントに関してもそうだ。
精度や耐久性などがすでに完成仕切っていて、変更する余地があまりにも少ない。
製品として完全に近いのがロレックスで、ロレックスはそこを最も評価されているブランドなのである。
(これともっとも近い車メーカーがポルシェである。普遍的なベースデザイン、世界トップクラスの性能というのがロレックスやパテックフィリップ、オーデマピゲともっとも大きな共通項となる)
実際、新型に同じムーブメントを搭載することもよくある。
デイトナ旧旧型 Ref.116520 と旧型 Ref.116500LNには同じCal.4130が搭載されていたのである。
その期間およそ23年。
23年間も同じ性能を誇る機械が他に存在するだろうか?
進化が止まっていた宇宙産業を含めないなら、腕時計業界くらいであろう。
時計業界でも一流のメーカー数社のみである。
宇宙産業と違う点は、腕時計業界はずっと進化していたことである。
そういう点でロレックスは相当にすごいブランドなのだ。
まとめ
つまりは、
デザインもほぼ一緒、性能もほぼ同じ、であるとすると、名車の件を例に取ると芸術性と球数という希少性のみが価格に影響を与えるようになる。
スーパーカーが名車となるための時間を吹っ飛ばしたのは、ロレックスのムーブメントなどに対する技術力なのである。
完成された技術力は新型の登場で必ずしも新しい製品に注意を惹かせない。
デザイン面での変化もあまり感じられないならカッコいいし高性能だし、旧モデルで良いよ、といった多数の思惑やプレミア感が旧型の価格高騰の理由の一つなのである。
スーパーカーが名車になるには、この再評価というプロセスが必要だったわけであるが、腕時計に関しては再評価というプロセスまでの期間がめちゃくちゃ短い、むしろ存在しないのである。
廃盤になることがイコールで評価され、一度も価値の減少を経験することなくそれまでの価値の延長線上に身を委ね、価格高騰の波に乗っていくのである。
これこそがロレックス、パテックフィリップ、オーデマピゲが持つプレミアで、『人気』のもっとも甘いスイートスポットを享受しているのである。
そこに買いが入り、そしてまた人気を呼ぶ。
その人気がその他のブランドの人気も上昇させる。
一部のブランドは業界全体の価値そのものを底上げしているのである。