現代の美しいラグスポ、デファイ
このブログでも何度もラグジュアリースポーツモデルに関してお話しているが、話しても話しすぎるということはない。
なんてたって、ラグジュアリースポーツの世界は深く広いからだ。
その広さというのは、幅広いブランドで同カテゴリのモデルが生まれており、その土壌がどんどん広がっているからである。
そしてどういう形で深いのかというと、その1本1本がとても深い存在なのである。
例えばノーチラス1本にしてもとても深遠な存在である。
1本というよりは1シリーズであるが、ある数少ない数本がそのシリーズの人気のほぼ全てを掻っ攫っているのでそういった表現になっているが、ノーチラス全体でもあらゆる種類が存在しており、そこにはさまざまなニーズに対応したモデルが存在する。
当然ニーズに全て応えるわけではなく、ブランドが目指す、というよりパテックフィリップの場合『守る』といった方が良いかもしれないが、その根幹となるコンセプトがベースとしてあり、市場のニーズとの折衷点を見出すのである。
威厳あるブランドであるから、なかなか冒険することが難しいのは確かだ。
そこであえて話題を拾うような切り込んだ戦略を取ることはリスクでしかないため、パテックなどの老舗には慎重な態度が求められる。
その中でノーチラスのような1シリーズはブランドとして生き抜きできるような存在であり、堅苦しすぎず、かといってダレた印象もないちょうどいい落とし所を見出したシリーズなのだ。
高級とスポーティさをハイブリッドさせた腕時計が世界の中心的な人気ウォッチとなっており、このブログでもあらゆるメーカーがその流れに乗ったシリーズを展開しているということはお話ししているが、
今回お話しする内容はゼニスのデファイについてである。
過去のデファイはこんな感じであったのだが、現代のデファイはまず動画どのくらいカッコいいのかを観ていただけたらと思う。
これが現代のデファイだ。
どうだろう?
めちゃくちゃカッコよくないだろうか?
過去のデファイはおもちゃのようであった。
僕は全くもって嫌いではなく、遊び心があって逆に面白いと思ったほどなのだが、ゼニスは最近といってももう10年近く前になるのだがラグジュアリースポーツの重要性を感じ早くも市場に新型デファイを投入してきたのである。
恐らくはウブロを見事に立て直したジャンクロードビバー氏の経営手腕によるものなのだろうが、新たなシリーズを生み出し新しい名前を与えるより、あまり人気がなかったであろうシリーズを立て直し、そのまま名前を使った方が認知度や広告費の面で有利であると考えたのであると思う。
会社を立て直す場合も、名前は残しておいた方が認知度という面で莫大な広告費と時間の大幅な削減につながるからだ。
堀江貴文氏も、ライブドアを買収した理由がそれだ。
名前は正直なんでもよかった。
それを知った時なんて頭の良い人なんだと思ったものである。
そういった形でゼニスはこれまでのゼニスとは違ったおしゃれでイケてるブランドになっているわけだが、元々素晴らしいメーカーであるので、やはりイメージは大体に良い。
そこで投入されたのがデファイというラグジュアリースポーツであるが、昨今の人気時計の押さえるべき点はしっかり押さえている。
ステンレスブレス、多角形ケース、ラグなし、
これだけ押さえておけば腕時計はラグジュアリースポーツの要素を十分に含んでいることになる。
あとは作り込み具合だ。
ただよく見ると少しオリジナリティのある部分がある。
それは十二角形のケースを採用しているところだ。
ケースというかベゼルというべきかもしれない。
ケースそのものは八角形になっている。
いずれにせよその十二角形のベゼルが他のラグジュアリースポーツとの違いを生んでいるのだが、これがなかなかに考えられているのだなと感じた。
というのも時計の表示は12時間計であるので、内円が12分割される。
そこでベゼルが同様に12分割されるのであれば、ベゼルの一辺が1インデックスという割り当てになるので、等間隔になっている分、感覚的に心地よい。
さすがやり手のジャンクロードビバー氏である。
潜在的に美しさを言葉に出来なくても、なぜかカッコいい、なぜか好きといった感覚はとてもパワフルな武器となる。
幾何学的な美しさをさらりと表現しているところにデファイの外見的良さが感じられる。
僕が好きなチャンネルにフォルツァスタイルさんというのがあるのだが、このチャンネルでもたっぷりとゼニスを堪能できるので是非視聴していただきたい。
デファイには最近の流行であるラバーストラップモデルも存在するので、そちらも吟味されるとまた良いだろうと思う。
大改造前のおもちゃのようなデファイ
今でこそなかなかかっこいいモデルが登場しているが、昔はゼニスのデファイといえばかなりエクストリームな外観を持つ腕時計であった。
エクストリームは極端なという形容詞で、実際『デファイ エクストリーム』 とモデルが存在していた。
格好はというと、僕は嫌いではない。
なんというか、Gショックを高級にした感じとでも言おうか、厳密にいうとスタイルは違うがロジェデュブイやリシャールミルのおもちゃ感がゼニスっぽくない雰囲気で表現されていた。
何度も言うが、僕は嫌いじゃなかった。
こういったタイプの腕時計で、高級すぎるクラシックな腕時計やラグジュアリースポーツなモデルに飽きた時に息抜きなどで着用したいタイプがこのデファイエクストリームだ。
今では完全にモデルチェンジして過去の遺産となってしまった昔のデファイエクストリームには数は多くないがコレクターなるマニアもきっといらっしゃることと思う。
僕は昔Gショックのシャアモデルの赤いやつが好きで、スイス時計の休憩として時々着用したいと思ってネットサーフィンしていたことがある。
結局購入にはいたらなかったわけだが、
富裕層で腕時計をたくさん持っていたいというゼニスマニアには、おもちゃっぽい、所謂ちょっと変な腕時計であるゼニスのデファイエクストリームは痒いところでもかなりニッチな部分を攻めているというマニアックぶりに所有欲を掻き立てられていたのかもしれない。
実際ちょっとダサい。
ダサさ加減を他の高級腕時計メーカーのそれと比較するなら、まずあげられるのが、ロレックスのエクスプローラーIIだろうか。
野暮ったくこれといったシャープな特徴がないのではあるが、ロレックスであるという点と、ケースの中の機械がそこはかとなく優秀であるこのギャップにゾクッとくるのである。
もう一つダサい高級腕時計を挙げるとすると、パネライのルミノールサブマーシブルであろう。
このモデルもデカイばかりで非常に重そうに見え、洗練された部分があまりない腕時計に一瞬見える。
しかしその低いスタート地点とは裏腹に、見れば見るほど愛着が湧きパネライ独特のイタリアンなマリンウォッチというこれまたニッチで実力とブランド力をバックグラウンドに持つという裏付けから、所有したいという意欲が湧いてくるのである。
要するに相手に対する期待値が低く見えない実力を兼ね備えている場合、じわじわとその良さに惚れ込んでいくという具合である。
夜明け前からどんどん日が登っていく感覚と似ている。
ダサいことがカッコいい。
ダサいことが武器になる。
端的に言うとそういうことだが、そのプロセスにはブランド力とその内面の実力を備えているのである。
ゼニスのデファイにしてもそうだ。
世界で初めて自動巻きクロノグラフを生み出したのはゼニスであり、現代の時計ブームの礎を築いた数少ない時計ブランドの一つという名誉ある歴史を持つゼニスが生み出した腕時計の一モデルとして存在する同モデルは、その確かなる裏付けゆえにエクスプローラーIIやルミノールサブマーシブル同様物凄いオーラを感じさせるのである。
もし他メーカーが同じような外観のモデルを生み出していたとしても見方は絶対に同じにならなかったであろうと思う。
実力という中身があると見た目もよく見えてしまうものなのだ。
反対に綺麗なだけが取り柄の腕時計も数多くあるが、歴史がなく(必ずしも長い必要はない)作りにもこだわりが感じられない場合は一切興味がわかないのである。
振動数36000/hというハイビートな鼓動を刻むところもゼニスの遺伝子が刻み込まれている。
やはり腕時計は見た目もそうだが、それと同等にムーブメントにも拘りたい部分がある。
最高級腕時計が最高級であるのは、デザインや素材も影響を与えているがやはり一番大きくその時計の価値を示すものは中の機械であろうと思う。
人類の叡智が凝縮し注ぎ込まれていればいるだけその価値が評価される。
デファイは数千万円、数億円するような世界最高級というレベルでは確かにないが、ゼニスを持っているという優越感は十二分に感じさせるであろう。
何を隠そう、次元大介の愛用時計もゼニスのクロノグラフなのだ。
デファイではなくクロノマスターではあるし、アニメキャラクターという実在しない人物が愛用している”設定”ではあるのですが、一流と認められたゼニスの、敢えておもちゃっぽい風変わりなモデルで日常使いするというマニアックなチョイスをしているところがまた乙であり風変わりだ。
それこそがエクストリームな選択なのではないだろうか。
今後のゼニスとデファイ
ゼニスといえばどんな腕時計を想像するだろうか?
ゼニスという腕時計メーカーを知ってはいても実際腕時計にどんなモデルが存在するのかはあまり知られていないのがゼニスの弱みである気がする。
パテックフィリップにはノーチラスというある意味キングのような存在があり、オーデマピゲにはロイヤルオークというノーチラスよりもインパクトのあるシリーズがある。
ロレックスにはデイトナという不動の人気クロノグラフが存在しており、このブランドといえばこれだね、といったイコールで結びつくというのは相当のブランド力があるということになる。
認知度というのはそういったことである。
さて、ではゼニスに限ってはどうだろう?
残念ながらゼニスと言えば、といった超絶目玉シリーズがまだ確立されてないように思える。
腕時計に詳しい人ならば、当然ゼニスと言えばデファイかクロノマスターでしょう、いう答えが返ってくるのだが、腕時計にそこまで興味がない人でもわかるのがロレックスのデイトナであったりウブロのビッグバンであったりすると、そこはまだ若干ゼニスの弱さなのではないかと思う。
逆にいうと、ゼニスはまだクロノマスターを推すのかデファイを推すのかという選択肢があるということでもある。
そこで両者の腕時計を最後に軽く分析してみようと思う。
上述したように現代のデファイは美しい。
デファイはラグジュアリースポーツの人気にあやかって生まれ変わったシリーズで、名前自体は以前から存在していたところに全面リニューアルということで登場したのである。
ジェラルドジェンタ氏のデザインを踏襲したかのような美しいプロポーションを持っており、ラグジュアリースポーツの基本をしっかり押さえた幾何学的に美しいシリーズに仕上がっている。
僕個人としてはクロノマスターよりもデファイを推していく方がゼニスの顔になりやすいのではないかと思う。
というのも、上述したブランド、パテックフィリップやオーデマピゲ、ロレックスなどの世界を代表する腕時計メーカーのフラッグシップとなっている最も人気のあるシリーズがデファイのようなラグジュアリースポーツウォッチであるからだ。
パテックのノーチラスには数千万円の値がついており、ロイヤルオークもデイトナもそれを追従している。
ピアジェもA.ランゲ&ゾーネも同じくラグジュアリースポーツを投入した。
そのほかにも同フィールドに新シリーズを登場させているメーカーは存在していて、現代の時計ブームを牽引している腕時計の種類というのがこのスポーティでエレガント腕時計達なのである。
そういったことを鑑みると、デファイを推しに推すのが得策なのではないかと思える。
とまあ、デファイのみの肩を持つのは不公平なので、クロノマスターの良さも見てみよう。
こちらがクロノマスター。。で。。ある。。
あれ、めちゃくちゃかっこいいじゃないか。
デファイはカッコいいし、ラグジュアリースポーツであるからクロノマスターをスルーして推していたが、クロノマスターがいつの間にやらめちゃくカッコよくなっていることに気づいてしまった。
なんというかこれ、スタイルはデイトナではないのか?
オメガのスピードマスターとも若干似ている。
特徴としてはかなりクロノグラフと言えば、というスタイルを完膚なきまでに再現している感じであろうか?
綺麗な円形の形状に同じく綺麗な黒いベゼル。
ステンレスと非常にマッチした色使いであることに異論はないであろう。
そしてバランスよく配置されたゼニスのエルプリメロ独特のインダイヤルがこれまたエルプリメロ独特の配色が施されて再現されている。
中央とサイドで反射によるものなのか若干シルバーの色合いが異なる3連ブレスとの組み合わせもまた違和感なく溶け込んでいる。
違和感がないのは当然かもしれない。
デザインに奇抜な特徴を敢えて採用していない感がある。
なんて美しいクロノグラフなんだ。
動画でも言われているように、2021年の新作として登場して以来、入手困難な時期が続いたのであろうが、それは本当に非常によくわかる。
これは簡単にはデファイが良いかクロノマスターが良いかは判断ができない状況である。
デファイが進化している間にクロノマスターもブラッシュアップされていたということだ。
それはまるで悟空とベジータが互いに触発しあいながら強くなっていくようである。
これは一本取られた。
実際先ほどの動画を見るまで僕はクロノマスターの最近のスタイルを全然知らなかったのでかなり驚いたのである。
そして色々調べてみると、クロノマスターにはこれでもかと種類が用意され、あらゆるニーズに対応したバリエーションを用意していることもわかった。
ある意味ウブロを同じ戦略を取っている。
ウブロを立て直したのがジャンクロードビバー氏であり、今のウブロ人気を作り上げたのが彼の功績である。
これまでのゼニスはこのような販売方法を取っていなかったことも考慮するとやはり彼の素晴らしい采配が為した技だということであろう。
さて話は戻ってデファイ vs クロノマスターのテーマであるが、もうこれはブランドツートップという形でいけば良いのではないかと思う。
適当に言っているのではない。
なぜならウブロにはビッグバンとクラシックフュージョンという根幹モデルが存在していて、スピリットオブビッグバンというような少し路線を外れた高級モデルが存在するが、基本的には大きく二つのシリーズがウブロを牽引している。
とすると、ゼニスのこのツートップ戦略も理に適っているし妥当な戦略であると思えるし、デファイもクロノマスターも綺麗に線引きされたように住み分けがなされている。
方や基本ベースをデイト付きの3針、方やクロノグラフ、といったプロフィールを持っているわけで、腕時計自体のタイプは違うが抽象的に捉えるとウブロと似た戦略であることが窺え、バリエーションを増やしているところはオメガの様でもある。
コンプリケーションを沢山生み出せる高い技術力と1969年というクロノグラフの歴史がゼニスの武器だ。
クロノマスターにあらゆるバリエーションでニーズに応え、デファイにコンプリケーションを載せていくという機械的な棲み分けもしている様である。
これまでのゼニスと違い、ちょっとお堅いブランドのような印象があったメーカーだが、ウブロの様なアイディアマン的な発想力を見せているのはジャンクロードビバー氏が吹き込んだ新たな風が原因だろう。
エンターテイメントの時計ブランドとしても機能している。
今後が楽しみではあるが、しばらくはデファイとクロノマスターの2種類を固定化した作戦でいくのではないかと思う。